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評者◆前田和男
第66回 名もなき八人の同志たち
No.2953 ・ 2010年02月13日




 こうして金成が細川の誘いを受けた翌週の五月一八日、新党立ち上げの最初の会議が開かれる。出席者は、時計回り着席順に、細川護煕、金成洋治、安藤博、永田良三、長浜博行、野田佳彦、橋本雅史、阿部公明、牧野聖修。これが結党のオリジナルメンバーである。
 ここで、細川、金成、長浜以外のメンバーのプロフィールを簡単に補足しておく。
 まず安藤博だが愛称はアンパク。細川の朝日新聞記者時代の上司で、ある事情で朝日を退社、細川が熊本県知事になってからはブレーンをつとめてきた。その後安藤は並河のひきで行革フォーラムの事務局に入って金成と出会う。金成にとって安藤は細川と日本新党に縁をつないでくれたいわば「月下氷人」であった。
 永田良三は熊本市生まれ。陸軍士官学校出身のエリートで、戦後は海外移住事業団(後の国際協力事業団)のブラジル所長、総務部長を歴任し、退職後、陸士の先輩の紹介で熊本県知事になった細川の地元後援会の事務所長をつとめてきた「城代家老」的存在で、最終的には日本新党の事務局長に就任する。なお、戦後二九年たった一九七四年までフィリピンはルバング島で戦闘をつづけた小野田寛郎少尉が、帰国後日本になじめず、ブラジルで農場経営を送るにあたって骨を折ったエピソードをもつ「気骨の人」でもあった。
 野田佳彦は、松下政経塾第一期生で、船橋市議を三期つとめ、当時保守系無所属で千葉県議になったばかり。政経塾で一年後輩の長浜に声をかけられ参加。後に民主党に合流、若手の信望をあつめ民主党のニューリーダーの一人に擬され、今回の政権交代で財務副大臣に就任している。
 橋本雅史は熊本の印刷会社の社長をつとめ、細川の地元後援会の有力者。金成が細川新党へ参加することに難色を示す並河を説得するのに一役買ってくれたのは橋本だった。
 阿部公明は当時西武建設の営業部長で、そのキャリアを生かして日本新党の財務を担当。細川の朝日新聞社時代の上司・伊藤正孝と同じく福岡修猷館高校↓早大の後輩で、そのつながりから細川と親交が生まれた。さらに付言すると、阿部は早大柔道部で主将をつとめた猛者、自民党の山崎拓、吉村剛太郎とは修猷館高校↓早大柔道部の「三羽烏」といわれた仲で、「友達の友達の輪」がつながって、後に山崎と吉村は「細川の政界人脈」に連なることになる。
 最後に牧野だが、金成に声をかけられてオブザーバーとして参加(この会議で正式メンバーと承認される)。金成は六〇年安保闘争後の学生運動の「敗戦処理」に疲れ、運動仲間であった静岡大学の唯山明人に誘われて、しばらく静岡で「左翼イデオロギーの呪縛」から脱却するために読書三昧の生活を送ったが、そのとき静岡高校一年生だった牧野の家庭教師をして以来の付き合いである。牧野は中央大学を卒業後、当時全国最年少で静岡市議に当選、その後は静岡県議を三期つとめ、自民党公認(安倍晋太郎派)で静岡一区から衆議院選に出馬して惜敗、浪人中の身であった。
 細川から誘いの電話があった直後に金成が電話をかけたところ、すでに牧野は、『文藝春秋』の「結党宣言」を読んで「足ががくがく震えるほどの感動」を受け、店頭に並んでいた二十冊全てを買い占めて仲間に回読、取るものもとりあえず細川の下にはせ参じたいという思いを募らせていた。そこへ金成が水を向けたわけで、牧野にとっては「渡りに船」だった。
 この初回の会議で金成にとって(そしておそらく他のメンバーにとっても)、最も思い出深いのは、牧野と細川の以下のやりとりだった。
 かつて金成が細川の事務所を訪れて感じたのと同じだが、牧野も細川ほどの著名人が旗揚げしたのだから、各界の名士が参集しているものと思いこんで会議に臨んだが、拍子抜けして、細川に「このメンバーでやるんですか」と問いただした。すると、細川は泰然自若としてこう返答した。「そうです。牧野さん、一緒にやりましょう」
 これで牧野は、「これは死にもの狂いで、成功させなければならない」と奮起したという。会議に出席していたメンバー全員も同じ思いに駆られた。
(文中敬称略)







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