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評者◆前田和男
第70回 窮余の奇策、重鎮と女性の登用
No.2957 ・ 2010年03月13日




 さて縷々述べてきたが、これらのことはわずか二ヶ月ほどでなされたものである。まさに慌しく走りながらの準備だったが、早くもその成果が試される時がやってきた。七月二六日に投開票される第一六回参議院選挙。日本新党にとって初の選挙である。
 これに向けて、日本新党は公募制を提起。日本憲政史では画期的な試みであったが、準備不足もあり、アイディアだおれの感は否めなかった。ここでもっとも苦労したのが、党の企画調整本部長として、代表の細川、事務局長の永田と共に「候補者選び」にあたった金成であった。公募には二一六名もの応募があったが、内実は「玉石混交」というより「石ばかり」の状態で、その中からわずか二名を公認するのが精一杯だった。さらに前述した事情で、票を取ってくれそうな有名人のシンパからも体よく逃げられる。新党を名乗る以上は候補者も若さが必要と考えてきたが、このさい背に腹は変えられない。世間的には無名だがその世界では実績のある「重鎮」を口説き落そう。六〇代以上、場合によっては八〇代でもいい。そう方針を切り換えて、金成らが「オルグ」をかけたのが、磯村英一(元東洋大学学長、都市社会学の第一人者、当時八八歳)、寺沢芳男(元野村證券副社長、多国間投資保証機関長官、当時五九歳)、小島慶三(元通産省審議官・経済同友会役員、当時七四歳)、武田邦太郎(新農政研究所所長、当時七八歳)らだった。行革フォーラムの代表世話人でもあった磯村本人には了解を得たが夫人の抵抗にあって頓挫。しかし、あとの寺沢、小島、武田からは快諾を得た。これに細川と公募の公認内定者を入れて、第一次公認の発表にこぎつけることができた。
 午後の記者発表では、「年寄りばかり集めて、日本新党のどこが新しいんだ」と評判はすこぶる悪かったが、夕刻になり各社とも候補者の履歴を確認するにおよんで、日本新党は有名人にすがっている軽薄な党と思っていたが、なかなか骨があるではないかと、がらりと報道の風向きが変わったのである。
 これで一息つくことができた細川から、「重鎮」の次は女性候補を立てようとの提案があり、動きをはじめたところ、細川の朝日新聞時代の先輩にあたる伊藤正孝からは小池百合子を、同じく細川の友人である加藤タキからは「離婚講座」で人気を博していた円より子を推挽され、細川が口説きおとすことに成功した。
 これが「重鎮起用」についで思わぬ効果をもたらした。円は公認候補になるにあたって、「党則」や「基本政策」に女性に関する政策課題を盛り込むことを求め、細川もそれを受け入れたのである。その中でも画期的だったのは「(女性)クオータ制」の導入である。「クオータ制」とは「割り当て制度」で、これまで保守・革新政党をとわず男が占めてきた要職に「女性枠」を割り当てようとするもので、党の運営規則第7条に次のように盛り込まれた。

 「役員、並びに委員会などの構成者のうちどちらかの性の割合が二〇%を下回らないものとする。なお西暦二〇〇〇年までにその比率を四〇%とすることを努力目標とする」

 この「クオータ制」は、日本の政党では保革をとわず初めて導入された画期的なもので、提唱者の円より子自身は、『日本新党変革の記録』(日本新党出版部編、一九九四年)で、その狙いを次のように述べている。

 「人口の半分以上は女性なので、単純に考えても政治の世界にももっと女性がいていいはずです。しかし、国会議員中女性の割合は当時六・八%(現在は一三・三%)でしかないのです。ノルウェーでは、どの党も党綱領にクオータ制を採用しているため、閣僚の四〇%以上を女性が占めています。一人でも多くの女性を政界に送り出し、パイプとネットワークを作ることが、女性の声を活かすには必要なことであり、女性の政治の世界への進出の手助けになると思ったのです」

 さらに「クオータ制」に加え、同じく女性の政治参加を促す目的から円より子は「女性のための政治スクール」を開校した。これらを目玉とする、従来の日本の政党になかった女性への目線が評価されたからであろう、小池や円についで魅力的な女性たちが候補者になることを受けてくれ、女性候補はなんと六人を確保。公示直前までに一六人の比例代表者名簿登載者と順位を発表できたが、それは「七割強の十一名が女性と五十歳以上の重鎮男性が占める」という、日本の選挙史上後にも先にもない何ともユニークなものとなった。
 しかし、日本新党にとって重要なことは、「新奇さ」よりも「実質的効果」だった。古くは新自由クラブ、同時期では新生党や新党さきがけなど、それまでの新党は、所詮は「男たちの政党」であった。「クオータ制」を目玉とする女性政策と半数が女性候補ということで、日本新党は女性たちから支持をえることになったのである。後に詳しくふれるように、衆院選の大躍進の原動力は「女性の応援」であったが、それはこの参院選の候補者選びによって作られたといってもいいのではなかろうか。
 さらに興味深いのは、「重鎮と女性の登用」がけっして周到に仕組まれた「人事」ではなく、まさに「窮余の一策」であり、それが効を奏したということだ。奏したどころか、日本新党のアイデンティティを固めるのに役立つことになる。よくフロック(偶然)を味方につけるのも実力のうちという。たまたまチャンスが転がってきても、誰もがそれを味方につけられるわけではない。それができる柔軟さ、縦横無尽さ、あるいは融通無碍さといったらいいだろうか、それがなければ「偶然のチャンス」を逃がしてしまう。政治もまた同じである。これは後に「日本新党の組織のあり方」で詳しくふれるが、日本新党は中央集権ではなく、フレキシブルでフラットな組織であった。金成も認めるところだが、そんな柔構造だったからこそフロックを味方につけ、それをちゃっかり血肉化することが出来たのであろう。
(文中敬称略)
(ノンフィクション作家)







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