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評者◆前田和男
第81回 連載を終えるにあたって(2) 最終回
No.2970 ・ 2010年06月19日




 連載に一区切りをつけることにしたのは、前述のように、政権交代を準備した主たる伏流水を探りあて「わだつみの声」を一定程度聞きあつめることができたからだが、もうひとつには、本連載を一冊にまとめる話がきまったからである。
 歴史的政権交代からわずか八ヶ月で民主党は大きくダッチロール。今夏の参院選では大きな揺り戻しがあるかもしれない。その背景には、本稿で何度もふれたが、「政権の交代」はなしたものの、「政治文化の交代」に至っていないことがある。新しい政治文化のシーズは表のメインストリームには宿らない。大物政治家による「我かく戦えり」の「大きな物語」にも宿らない。むしろ政権交代を準備した名もなき人々の「小さな物語」にこそ宿る。だからこそ、政治文化を交代させるには、政権交代を準備した伏流水をさぐり、そこに「わだつみの声」を聞かねばならない。そのためにも本連載を一冊にまとめることは時宜を得ていると思われる。
 ただし、まとめるからには、本稿の目的をより説得力あるものにすべく、以下の三本の伏流水を加筆することにした。以下にその概要をご案内しておく。
 一本目は「リベラルフォーラム」。九五年春、政権再編の旗手と期待された横路孝弘が北海道知事を「満期修了」、海江田万里(当時日本新党)、仙谷由人(当時社会党)、五島正規(同)、鳩山由紀夫(当時さきがけ)、菅直人(同)、高見裕一(同)らに呼びかけて立ち上げた政治集団である。折りしも小沢一郎が自民党を割ってつくった新生党をコアに日本新党や公明・民社などを糾合して巨大野党「新進党」を立ち上げた。このままでは自民党と新進党による保守二大政党制になるとの危機感を抱き、社会党とさきがけを中心にリベラル勢力を結集。これによって自民新進に対抗する第三極として民主党がつくられる。すなわちリベラルフォーラムがなかったら民主党は生まれていなかったという意味で、リベラルフォーラムはまさに民主党の「孵化装置」であった。
 語り部は、横路がリベラルフォーラムを立ち上げるために連れてきた北海道知事時代からの政策ブレーン、松本収。九八年新進党が空中分解し四分五裂した野党を民主党が糾合、自民党に対抗する最大野党になる歴史的場面に居合わせ、民主党による政権交代という大芝居の「黒衣」として居残った松本からは、貴重な証言が語られるだろう。
 二本目の伏流水はローカルパーティ(地域政党)である。九六年春、民主党の結成に先立って、全国の地域政党が連携してローカル・ネットワーク・オブ・ジャパン(Jネット)が結成される。前述のリベラルフォーラムを民主党の「頭」とすると、Jネットは民主党の「足と腰」であり、従来の政治潮流のそれとは一線を画す新しい政治文化を内包していた。その語り部は、ローカルパーティの中でもっともパワフルな地域政党「東京市民21」代表の日本女子大教授・住沢博紀。京大全共闘の中心メンバーとして活動した後ドイツへ一五年間留学、当地で「緑の党」など六八年世代による「新しい政治文化」の息吹をぞんぶんに吸って帰国したユニークな体験をもつ。
 いま民主党が政権の座につきながら、早くもダッチロールをはじめ、その腰が定まらない理由の一つには、「新しい政治文化」の担い手たるローカルパーティの「かくも長き不在」にあると思われる。したがって、住沢の証言を通じて、東京市民21とローカルパーティを語ることは、忘れ去られた過去の出来事を掘り起こす歴史作業にとどまらない。民主党と政権交代が「どこから来てどこへ行くべきか」を語ることにもつながるはずである。
 三本目の伏流水は、日本における「オリーブの木」である。「オリーブの木」とは九〇年代前半イタリアでは政治腐敗と多党化による対立の中で混迷がつづいていたが、中道と左派政党が統一首相候補を立てて連合し、九六年四月に政権を奪取。これが契機となって政権交代可能な政治システムが機能するようになった。発案者で後に首相に選ばれるロマーノ・プロディの「平和のシンボルで、イタリアのどこにでも生え、悪天候にもよく耐えて深く根をはりしかも実がなる」という想いを託して、この運動は「オリーブの木」と名付けられた。このイタリア生まれの「政権交代運動」を日本に移植し育てようと仕掛けた人々がいた。
 語り部は若尾光俊。安倍晋三内閣の官房長官を務めた塩崎恭久や坂本龍一らと「浪人全共闘」に加わり、党派活動家となった後、海江田万里の秘書をへて、日本版オリーブの木にかかわった。第二次民主党は菅直人を代表にいただいたとき、束の間であったが、「日本のオリーブの木」を標榜、政権奪取をめざしたことがあった。イタリアからも関係者を招いてその仕掛けにかかわった若尾の証言は、日本版オリーブの木という伏流水が今回の政権交代を用意したことを興味深く語ってくれるだろう。
 以上、いずれもいまや忘れ去られてしまった三本の伏流水を加えることで、本連載の目的――「政治的大変」がどこからきてどこへいこうとしているのか――をよりクリアに見通してくれるかもしれない、とひそかに期待している。
 なお、本書は、ポット出版から、政権交代のゆくえがいくらかは見晴るかすことができるかもしれない参院選挙後に刊行される予定である。ご興味のある方はご味読をたまわれば幸いである。
 最後に、二年にわたるご愛読に重ねて御礼を申し上げて、筆をおく。
(文中敬称略)
(了)







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