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評者◆トミヤマユキコ
小島慶子の戦略的 「ますらおぶり」について
No.3005 ・ 2011年03月12日




▲【こじま・けいこ】1972年生まれ。元TBSアナウンサー。オーストラリア生まれで、シンガポールや香港に住んでいたこともある。2010年6月末にTBSを退社してからは「ラジオパーソナリティ」を名乗る。「小島慶子キラ☆キラ」(TBSラジオ)は、ビビる大木、神足裕司、宇多丸(RHYMESTER)、ピエール瀧(電気グルーヴ)、水道橋博士(浅草キッド)が日替わりで登場する「サブカル男子まつり」状態が好評を博し、目下聴取率第1位。

 小島慶子がTBSにつとめる「女性のアナウンサー」であったことは疑い得ない事実だ。しかし、彼女がいわゆる「女子アナ」だったことはなかった……おそらく、ただの一度も。

 カッコつきの「女子アナ」は、コンサバファッション(ゆるふわ)に身を包んでおり、知性をかわいらしさで完璧にコーティングしており、男性の欲望を内面化することに長けており、和をもって尊しとなす協調性で誰からも愛されるマスコットキャラクター的存在であり、またそうした自身のあり方に極めて自覚的であり、その結果、青木さやかやマツコ・デラックスの攻撃対象となるのが常である。しかし、局アナ時代の小島に当てはまるのは、せいぜいがコンサバ服ぐらいのものだ。

 かつて彼女が出演していた「デジ@缶」は「女子アナ」がじゃれ合いながら様々なトレンドを紹介するロケ番組だったが、小島だけは、出演者同士の仲良しごっこに加担せず、ひとり気ままに行動し、出された料理に対しても、好き嫌いを結構ハッキリと表明するなど、深夜放送ならではのヌルさを期待していた視聴者(わたし)をハラハラさせたものだった。

 「女子アナ」的なるものに全く馴致されない女、それが小島慶子である。誰とでも仲良くし、不味いものにも「わぁ美味しい!」と言えてしまうような「女子アナ」の面の皮に萌えたがる視聴者にとって、彼女の言動はガッカリものだろう。

 しかし「キラ☆キラ」スタート以降、テレビではいまいちハマり切らなかったこのキャラクターが好意的に受け止められ、そればかりか「オジキ(OJK)」という実に「ますらおぶり」なあだ名によって称揚さえされている。オジキは、番組内でパートナーと意見が対立しても決して譲らないし、興味のない話題には平気で生返事を繰り出す。特筆すべきは、堂々たる態度で下ネタ投稿を読み上げる様子。「下ネタをスルーするでも過剰防衛するでもなく、淡々と処理できる女子がやっと現れた!」と感動したのはわたしだけではないはずだ。

 間違って欲しくないのは「オジキ」は「オヤジ」ではないということ。小島は女を捨ててオッサン化しているわけではない。むしろ小島は上品だし、いつだって美しい言葉で話す。ただ、放送に臨む姿勢が「女子アナ」のそれとは相容れないほどに雄々しく、強く、まっすぐなだけだ。って、まるで高倉健みたいだな。

 ラジオ以外の活動も見逃せない。雑誌「VERY」(光文社)で連載中の「もしかしてVERY失格!?」は「VERY」の連載なのに「VERY」らしさからズレて見せることで「VERY」という雑誌自体を相対化してしまう、という高等テクを駆使しているので「VERYを読んでるわたし」に酔いしれたい人にはオススメできないが、面白い文章をお探しの方には是非ともチェックして欲しい。ラジオにせよ、文章にせよ、小島の言葉は予定調和を嫌い、だからこそ危うく、そして新鮮である。

 小島は、既存の枠組みに寄り添うのでも、抗うのでもなく、その枠組みを可視化したり、カラフルに塗り替えたりするための仕掛け作りが本当に巧い。しかも、外部から枠組みを攻撃するのではなく、あくまでその内部で勝負するのが小島の流儀だ。

 ある種の抵抗勢力として、しかし対象の内部に自分の席を確保する小島のスタイルを、メディアは今後ますます必要とするだろう。彼女の「ますらおぶり」は、いまやたんなる個性を超えて、メディアを活性化するための「戦略」として確実に機能し始めている。

 たとえば同じ「ますらおぶり」なら和田アキ子だっているけれど、アッコはいつだって視聴者の生活感覚に照準を合わせた語りを目指そうとしては失敗して、そんな自分の不器用さにかんしゃくを起こして、峰や勝俣になだめられるという、見事なまでの自給自足ぶりを露呈するばかりだ。そこにあるのは「アッコのアッコによるアッコのための放送」とでも言うべきもの。それはもはや伝統芸能であって、定番商品的な安心感こそあれ、メディアを活性化させる要素は何もない。

 一方の小島は番組&リスナーのためというよりは、それらを含み込んだ「放送」のために、もっと遠く、高く、広いところを目指して喋っている。「良い放送のために喋ってるし、聴いてくださる方のために喋ってる。面白いことのために喋ってるし、必要なことのために喋ってる」(『Quick Japan』Vol.90)という発言には、その志がよく表れているが、まっすぐ過ぎる喋りのスタイルからして「発言力のある女を嫌う権力者たち(たぶん女子アナ好き)」によって危険な目に遭わされる可能性がなきにしもあらずなので「オジキ! 闇討ちにはくれぐれも気をつけて!」と余計なお世話を承知で言いたい。







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